洋画

『私の少女』ぺ・ドゥナ主演 韓国映画らしい重苦しさにやや涼感を加えた名作

ぺ・ドゥナ主演。加えて当時天才子役と言われていたキム・セロンの名演技。虐待や差別といった社会問題がベースのヒューマンサスペンスドラマ。噛めば噛むほど、にじみでる奥深さがある作品です。

妄想して、日本の女優さんがこの作品を演じるとしたら、ヨンナムは宮崎葵ちゃん、ドヒは芦田愛菜ちゃんだな。

《作品について》

1.データ

  • 監督・脚本:チョン・ジュリ
  • プロデュース:イ・チャンドン
  • 受賞:2014年ストックホルム国際映画祭コンペティション最優秀新人監督賞・2014年映画賞 新人女優賞(キム・セロン)

2.キャスト

  • ヨンナム(ペ・ドゥナ):ソウルで問題を起こし、田舎の警察署に左遷されたエリート警察官
  • ドヒ(キム・セロン):義父とその母に日常的に暴力を受けている ヨンナムになつき、保護してもらう
  • ヨンハ(ソン・セビョク):ドヒの義父 村の経済のため欠かせない人物だが、酔ってはドヒに暴力をふるっている

3.あらすじ

ソウルで問題を起こし、田舎の警察署に左遷されたエリート警察官ヨンナム。その村で、義父親ヨンハとその母に虐待されているドヒと出会う。同級生からいじめられているところを助けられたり、自分を気にかけてくれるヨンナムにドヒはなつく。

ある日、暴力から逃げてきたドヒをヨンナムは自宅で保護する。安心を得て、ドヒは子供らしさを取り戻すが、一方、感情を抑えられない一面も見せる。

ヨンハは、若者がほとんどいない村にはなくてはならない存在。ヨンハの横暴を見て見ぬふりをする村人たち。しかし、ドヒへの虐待に加え、その他の問題行動についてもヨンナムは彼に警告を与える。その末、ある事件で逮捕するに至るが、ヨンハは逆恨みをし、嘘の告発によりヨンナムを陥れようとする。その内容はヨンナムが左遷になった理由に関連したことであり、彼女は窮地に立たされてしまう。

《ドラマチック感想》

◆韓国映画らしい重苦しさに、やや涼感を加えた良作

根が深い、人間のダークな部分に焦点を当てた、韓国映画らしい重苦しさのある作品です。

虐待とか差別といった社会問題がベースになっていて、「臭いものには蓋をして、責めるべきは自分ではない他者」っていう意識を具現化したような村が舞台。そこで出会ったそれぞれに痛みを抱えた二人。お互いの存在を守りたいはずなのに、自身の嘘や疑心によって、危うい立場に追いやってしまいます。

最後はハッピーエンドにも思えるんだけど、救いはあるのか、ないのか。周りも自分も変われず、痛みを背負いながら生きていかざるを得ない二人のこれから。

気が滅入るストーリーだけど、主演の二人の透明感とか、暴力に対する距離の置き方とか、映像には全体的にさらっとした清涼感があります。そこは女性監督ならではっていう印象。

観客を巻き込みすぎず、クライマックスまでの布石を一つずつ丁寧に置いていき、最後は驚かされ、その結末に、もやっと考えさせられる。社会に一石を投じるような、映画らしい良い映画だったと思います。だけど、何もそこまで!って思うくらい暗黒ヘドロを塗りたくってくる、韓国映画独特のドロドロ感が好きな人には少し物足りないかも。

◆なんといっても主演の二人

『リンダリンダリンダ』でペ・ドゥナを知って、魅力的な女優さんだなあと、作品を追いかけたことがあります。美人にも見えるような、そうでもないような。決して派手ではないのに目が離せなくなる、不思議な存在感。韓国の女優さんでは断トツに好き。

ペ・ドゥナがこの作品で演じるのは、ソウルから左遷されて田舎町の警察署長に就任したエリート警察官ヨンナム。左遷の理由となった傷を抱え、心を閉ざして生きることをこなすだけのようなヨンナム。その最小限に感情を抑えて凛とした姿の中に、不安定な揺らぎが見える、なんとも素晴らしい演技でした。

そして当時、天才子役と言われていたドヒを演じたキム・セロンの演技も圧巻。ヨンナムに保護され、子供らしさを取り戻していく様子は、ちょっと無邪気すぎ?と思ったけど、ストーリー全体をとおすと、それも演技のうちなんだと分かります。

犬がじゃれるかのようのな無垢な甘えをみせたかと思えば、悪魔が入り込んだような容赦ない行動。どちらもドヒの純粋が故の行動、という役の難しさを見事に演じています。

◆痛みが残る結末

痛みを知らなければ、他人の痛みも理解することはできない。

母親に捨てられ、日常的に義父に虐待され、身体だけでなく心にも傷を負っていたドヒ。自分を保護してくれたヨンナムに妄信的になついたのも、同じように痛みを知る者だと分かったからかもしれません。子供は曇りのない目があるから。

一方、始めは警察官という立場もあり、虐待を受けているという子供を保護する、という職業的理由でドヒに関わったヨンナム。最後はドヒの真底の傷を知り、その痛みを本当の意味で引き受けます。

引き返したヨンナムは、ドヒに「一緒に行く?」と声をかけます。それはドヒを捨てた母親が、昔、ドヒを連れて逃げたときには使った言葉。母親に捨てられたという傷が昇華しそうなくらい意味がある言葉を、あえて口にしたヨンナムの覚悟がうかがえました。

だけど…。二人はもう、無垢な世界には二度と戻れない。

小さな肩で寄り添い生きていく二人のこれからを想うと、観終わったあと、何ともやるせない気持ちが残りました。

最後に(ネタバレ含みます)

ヨンナムが同性愛者なのは早い段階で分かった。で、何をやって左遷になったん??とその理由がずっとわからず。先輩がみんなに迷惑をかけてとか言ってるから、何か事件を起こしたの?と思っていたけど、つまり、同性愛者だったこと自体が左遷の理由だったんですね。ここら辺は文化の違いもあってか私の理解追いつかず。

あと、ヨンナムが始終飲んでいたのも、ずっとミネラルウォーターかと思ってました。だって、あまりに淡々と飲んでるから。瓶からペットボトルに入れ替えてるシーンもあったのにね。

ただ飲むんじゃなく、そこに飲む理由はありそうな演出だったから、拒食症?って思ってたんだけど、眠るために飲んでるという台詞に、え?お酒だったの?となり。「楽しい」も「悲しい」もなく、酔っぱらってとぐろを巻くような汚い飲み方でもない、こんなお酒の飲み方もあるのね。

といった感じで、何かと理解が遅かった分、見逃した大事なところがある気がします。見直したらもっと新しい発見がありそうな作品です。

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ペ・ドゥナを知ったきっかけとなった邦画『リンダリンダリンダ』。4人の女子高生が、ブルーハーツのコピーバンドで学園祭ライブに出演するという青春音楽ムービー。ぺ・ドゥナは韓国からの留学生で、バンドのボーカル。ひょうきんでピュアな高校生役の彼女が見れます。おすすめです。