邦画

『リンダ リンダ リンダ』山下監督のリアル青春音楽ムービー

題名のとおり、ブルーハーツの名曲「リンダリンダ」をフィーチャーした山下淳弘監督の青春音楽ムービー。

脚本、音楽、出演者、どれも素晴らしい。青春時代特有の情熱や自意識が溢れるピュアストーリーに、誰もがあの頃に引き戻されてしまう、個人的には非の打ちどころがないと思う映画です。

当時はまだ20代だった山下監督。なのに、若手監督とは思えない集キャスト力に、その実力と脚本の魅力が伝わってきます。

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《作品について》

1.データ

  • 監督:山下淳弘
  • 脚本:向井康介・宮下和雅子・山下淳弘
  • 音楽:James Iha
  • 主題歌:「終わらない歌」 THE BLUE HEARTS
  • 公開:2005年

2.キャスト

  • ソン(ペ・ドゥナ):韓国からの留学生。通りがかってバンドのボーカルにいきなり任命される。
  • 山田響子(前田亜季):ドラム 明るい平均的な女子高生 メンバーの仲裁役
  • 立花恵(香椎由宇):ギター 本来はキーボード 怒りっぽいけど気持ちは優しい
  • 白河望(関根史織):ベース バンドの役割同様に落ち着いている
  • 今村萌(湯川潮音):恵たちが組んでいる元々のバンドのギター 指を骨折する
  • 小山先生(甲本雅裕):軽音部の顧問
  • 阿部友次(小出恵介):軽音部の部長
  • 前園トモキ(三浦誠己):恵の元彼で軽音部のOB

3.あらすじ

学園祭にオリジナル曲で出演する予定だった5人組ガールズバンドの恵(香椎由宇)たち。ギターの萌(湯川潮音)がケガをしたことで、恵とボーカルの凛子(三村恭代)がもめ、恵たちは別のコピーバンドとして出演することに。

コピーするのはTHE BLUE HEARTS。ボーカルを探し、通りがかった韓国人留学生のソン(ぺ・ドゥナ)に声をかける。

3日後のライブ当日に向けて猛練習するメンバー。「意味なんかない」けど、青春そのものの数日間を過ごすメンバーたちの姿が、THE BLUE HEARTSの名曲と共に描かれる。

《ドラマチック感想》

◆音楽好きをくすぐる要素が満載

ブルーハーツの名曲が使われているのはもちろん、本物のミュージシャンが役者として出演していたり、あ!と思うような音楽要素がたくさんありました。

1.音楽を担当しているのはジェイムス・イハ

アメリカの人気オルタナバンド、スマッシング・パンプキズの元ギターリスト。日系3世でcharaや湯川潮音の楽曲なども手掛けています。

シーンに絶妙に合った音楽がすごく良くて、誰の曲だろ?と思ったら、ジェイムス・イハでびっくり。小川に光が当たってきらきら揺れているような、せつなさ混じりのきれいなギターやピアノの音が印象的です。

2.俳優デビューしたミュージシャンたち

ベースの望役を演じていたのは、ベースボールベア(通称:ベボベ)の関根史織。3ピースのロックバンドのベーシストで、最後のライブのベースの弾き方は演技ではないミュージシャンのノリです。

また、指を骨折する今村萌を演じたのは、シンガーソングライターの湯川潮音。本人のアルバムではハナレグミやくるりからも楽曲の提供を受けていて、作中でも透明感あるきれいな歌声が素敵。

留年した先輩はME-ISMというロックバンドのベース&ボーカルの山崎優子。登場の発声から普通の俳優さんじゃない雰囲気がまんまんでした。

3.使われている楽曲がツボ

ブルーハーツの曲は、「リンダリンダ」のほかにも、「終わらない歌」と「僕の右手」が使われています。

他にも学園祭ライブでカバーされていた曲、ユニコーンの「すばらしい日々」や、はっぴいえんどの「風来坊」の選曲にもわくわく。ブルーハーツやユニコーンは私くらいのアラフォー世代がまさに中高生くらいだった頃、熱狂したバンドたちです。

恵の好きなバンドがラモーンズというのも、ツボにはまりました。

◆主演以外の俳優も気になる

脇役の俳優さんも、気になる人がたくさん。

ブルーハーツのボーカル甲本ヒロトの弟、甲本雅裕が軽音部顧問の先生役として出演していたり、今ではすっかり有名になった松山ケンイチも冴えない男子高校生がはまり役でした。

恵の夢に憧れの人としてピエール滝が一瞬出ていたり。

あと、カラオケ店員として出演していた山本剛史。山下監督とは中学時代の友人で、山下作品お馴染みの俳優さん。私は「バカの箱舟」の演技が面白すぎてファンになりました。

他にも、同じく山下作品でお馴染みの山本浩司。スタジオの店員として出演していましたが、山下作品以外でも色々な映画やドラマなどで見かける名脇役です。

◆4人のヒロインたちがかわいすぎる

なんといってもソン役の韓国を代表する俳優ぺ・ドゥナ。私はこの作品で彼女のファンになりました。地味な留学生活を送ってたのに、バンドに誘われて、友達が出来て、どんどん本来のひょうきんぶりを発揮して、きらきら輝いていく姿。ソンのわくわくする姿が、バンドメンバーだけじゃなく、観客の気持ちも引っ張ります。

短気な恵を演じた香椎由宇は、倦怠感の中にくすぶるパワーみたいな、すごく若い青臭さを感じる演技が良かった。

響子役の前田亜季は、女子高生代表っていう感じの完璧なさわやかさ。望を演じた関根史織の朴とつとした雰囲気も良かった。

それぞれのキャラクターが違うリアルな女子高生ぶりが、瑞々しくて魅力的です。

◆音楽と青春の最強タッグ

ソンちゃんはブルーハーツを初めて聴いて涙します。その感動わかる。ブルーハーツのまっすぐな曲と歌詞は、今聞いてもグッときます。もやっと、何に悩んでるかよくわからない気持ちを抱えた思春期の若者なら、なおさらだと思う。

そんなブルーハーツを演奏すべく、数日後の学園祭ライブに向けて猛練習を始めた4人。

最初の音合わせはめちゃくちゃな不協和音。本気で下手くそって感じが面白い。それが、一緒に時間を過ごして、ライブ演奏に向けてがむしゃらに頑張って、本番前には上手くはないなんだけど、ちゃんと一つの音楽になります。一緒に体を揺らしたくなる、その一体感がすごい。

「別に意味なんかない」。急揃えのメンバーでライブに出ることを決めた恵が、それ意味あるの?と凛子に言われて答えた言葉。

意味を求めたんじゃない。だけど、4人が一緒に過ごした、たった数日が、その後の人生では得られない、「青春」っていうかけがえのない時間になる、っていうのが完璧な脚本で描かれています。

◆ちょいダサのリアル

ただキラキラした青春なんじゃなく、ダサさとか、シュールな演出がてんこ盛りに入っていて、そのこだわりが、観客との距離を近くして、物語のリアルさを増しています。

高校生って、制服の着崩し方とかだけで一軍、二軍みたいなのがわかるけど、恵たちはいけてる一軍寄り。

だけど、家に帰れば、ジャージを着てたり、眼鏡つけてたり、恥ずかしいお兄ちゃんいたり、大家族で部屋が雑多だったりと、全然普通で、とにかく生活感がすごい。

冒頭の生徒会長たちによる学園際の映像や、ソンちゃんに告白する男の子の青臭さとか、恵の元カレのシュールないけてなさぶりとか、ちょいちょい面白くて。途中たまらなくなって何度も声を出して笑ってしまいました。

ダサいのも、自意識過剰な感じも、青く酸っぱい青春のかけらみたいなのが、等身大で描かれているそのリアルさに、一軍だった人も二軍だった人も、自分の高校時代が重なって、胸がさわさわ、ドキドキすること間違いなし!

ペ・ドゥナを筆頭とする出演者の魅力に加え、音楽や笑いのしかけも絶妙な、おすすめ作品です。

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