映画『ルーム』視聴しました。
実際に起きた事件を基に描かれた原作「部屋」を映画化したこの作品。監禁された女性が、そこで出産した子供と共に「部屋」から脱出するというストーリー。公開当時からものすごく気になっていたんです。
ただの脱出劇で終わらないという話は小耳にはさんでいたのですが、脱出がメインじゃないストーリーに、感動し、考えさせられる作品でした。
[adsense]
Contents
《作品について》
1.データ
- 監督:レニー・エイブラハムソン
- 原作:エマ・ドナヒュー 『部屋』
- 受賞:第88回アカデミー賞主演女優賞、第40回トロント国際映画祭観客賞 受賞
- 公開:2015年(米)、2016年(日)
2.キャスト
- ジョイ(ブリー・ラーソン):19歳から7年間、部屋に監禁される 監禁されて2年後、ジャックを出産
- ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ):狭い部屋の中だけで育った5歳の少年
- ばあば(ジョアン・アレン):ジョイの母、ジャックの祖母
- じいじ(ウィリアム・H・メイシ―):ジョイの父、ジャックの実の祖父
- オールド・ニック(ショーン・ブリジャース):ジョイを監禁した犯人
3.あらすじ
犬を一緒に探してほしいと声をかけてきた見知らぬ男。19歳だったジョイはその男によって狭い部屋に監禁されてしまう。2年後、ジョイは男の子を出産。
ジョイが監禁されてから7年、男の子が5歳になるところから物語は始まる。
男の子の名前はジャック。ジャックにとっては部屋の中が世界の全てだった。知っている本物の人間は、ママ(ジョイ)と数日おきに食料などを持ってやってくるオールドニックだけ。
ある日、ジョイはジャックに真実を話す。本当の世界は外にあって、私たちはオールドジャックによってこの部屋に閉じ込められている。ここから出るために協力してほしいと。
ジャックは混乱しながらも、ママを助けるため決死の脱出をはかり、無事外に出ることが出来るが…。
《ドラマチック感想》
いやー、観ている間中、心がそわそわ。
部屋にいる間は、酷いことが起こらないか(閉じ込められていること自体ひどいことだけど)、脱出するときは失敗しないか、外に出てからは、これからどんなことが起こるの??と心配し尽くしました。
終始ジャック役のジェイコブのピュアさに癒されます。彼の透明感がストーリーの凄惨さを中和してくれていました。
・変化に馴染めない大人と受け入れるしかない子供
脱出後、1日でも早く自宅に帰りたがるジョイを、まだ自宅に帰るのは早すぎると医者が心配していました。
初めは、産まれてから全く外に出たことのないジャックを心配しての発言かと思っていたけど、実はそうじゃなかった。医者はちゃんと「こどもは柔軟だから」と伝えていました。心配していたのはむしろ母親のほう。
外に出ることが出来れば、元の生活に戻れると信じていたジョイ。
だけど、監禁された部屋で生きたその時間は、世間と自分との間に埋められない溝を作っていました。ジョイ自身も事件が起こる前の人生に戻りたい気持ちと、ジャックが大切だという相反する感情によって、ストレスを大きくしていきます。
そんなところに、インタビューを受けたリポーターの心無い一言がとどめを刺して…。
自分の全てをかけて守ってきたと思っていたのに、むしろジャックを不幸にしていたかもしれない、という考えに陥り、ジョイは心を完全に壊してしまいます。
一方、自分の置かれた状況を少しずつ理解して、新しい世界に馴染んでいくジャック。
子どもは受け入れるしかない分、大人より柔軟に見えるのかもしれません。
・脱出後の二人を取り巻く人々の描写がリアル
二人に対する周りの反応。
この設定がリアルで、ジョイが思い詰めていく過程や、ジャックが新しい世界に慣れていく過程をリアルに感じることができました。
例えば、自分の娘に危害を加えた犯罪者との子どもである孫を拒絶するジョイの実父。娘を思うがゆえに、こういう反応をする父親は多そう。理屈では割り切れない感情が伝わりました。
話題性だけで無神経に被害者感情に踏み込むマスコミは、わかりやすく二人にとって障害でした。
また、ジャックが一番最初に心を開くことができたのは、ばあばの再婚相手であるレオ。一番客観的にジャックに関われる人物だったからではないでしょうか。
あと、ジャックをサッカーに誘う隣家の少年とサッカーをする描写も効果的でした。子供は偏見が少ないから、複雑な事情は関係なく、垣根をすぐに超えられるのでしょう。
・確かな親子愛に涙
前半の部屋での二人の生活。
狭い部屋の中で、出来得る限りの知識を与え、健康にも気を使いながらジョイはジャックを大切に育てていました。オールドニックがジャックに関わらないように必死で守って。
その愛が伝わったからこそ、脱出した後、ジョイがしてしまった行動が悲しすぎです。それは愛あるゆえの苦悩で心が壊れたからだったんだけど…。
残されたジャックの不安や悲しみと、小さな力ではどうにも出来ない世界が静かに描かれます。
だけど、ジャックの母への変わらない愛が、最終的にジョイを救うというラスト。その描き方も大袈裟すぎず、ただ信じているというのが伝わるジャックの演技。
二人が築いてきた確かな愛があってよかった。
守って、支えあえる確かな存在。信じられるものがあったから、ジョイは立ち直る勇気が持てたのだと思います。
・こんな事件は起こっちゃだめだ
親子二人が、前向きに人生を歩める感じで終わったエンディング。本当に良かった。ほっとしました。だけど、見終わった後も、なんだか心にはずっしり重りが乗っかったままです。
もし、自分がジョイだったら?リポーターにあの問いを投げかけられたら?
心を壊してしまったジョイの、消すことのできない苦悩を想像するだけで、息が出来なくなるような不安が襲ってきます。
この映画の原作となったエマ・ドナヒュー『部屋』は、フリッツル事件という実際におきた事件が基になっていますが、Wikipediaで調べてみると、映画で描かれているよりもさらに複雑で、世の中にこんなやるせない悲劇が起こっていいのかと、目を閉じたくたくなるような事件でした。
⇒フリッツル事件の詳細はこちら
この映画はただの物語じゃなく、実際に起きていて、これからも起こり得る問題がテーマになっています。ハッピーエンドで良かった、だけではない映画に込められた意味を考えさせられました。
とにかく、こんな事件が起こるのは本当に嫌!
重たいテーマですが、きれいな色彩やポップな映像表現が多彩で、とても見やすい映画でした。すごく良い作品です!ぜひ鑑賞してみてください。
原作となった作品、「部屋」はこちら↓