「ナイトクローラー」は、事件や事故などを扱う報道専門のカメラマンの通称。彼らはメディアに高く売れそうな映像を取るため、夜の街を巡回している。
この作品では、視聴率至上主義のテレビ局が望む映像を撮るため、事件現場を改ざんしてでも衝撃映像を追う、一人のナイトクローラーが描かれている。
しかし、彼の狂気は業界に身を置いてから生まれたものではなく、もともと人格に偏りがあった人物が、テレビ業界という身に合う水を得て、暗躍できるようになったというストーリー。
その行き過ぎたナイトクローラーを演じたのはジェイク・ギレンホール。これまでのイメージを一新したジェイクの怪演は大きな話題となった。
Contents
《作品について》
1.データ
- 監督:ダン・ギルロイ
- 音楽:ジェームス・ニュートン・ハワード
- 公開:2014年(米)、2015年(日)
2.キャスト
- ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール):無職からナイトクローラーとなるが、その行動は常識の一線を越えている
- リック(リズ・アーメッド):ルイスに雇われたアシスタント 現場までのルートをナビゲートする
- ニーナ:(レネ・ルッソ):ローカルテレビ局のプロデューサー ルイスから映像を買いとる
3.あらすじ
無職で金網やマンホールを盗んで業者に売り生計を立てているルー(ルイス)。定職を探しているが、学歴もなくどこにも雇ってもらえない。
ある晩、偶然交通事故に出会い、そこに駆けつけたベテランのナイトクローラーを目撃する。
事件を追って、映像を撮る。自分にも出来ると考えたルーは、盗んだロードバイクを売って、ビデオカメラと警察無線機を手に入れる。無線を傍受し、駆けつけた現場で、被害者が銃で撃たれた悲劇的な場面を強引に撮影する。
その事件の映像が持ち込んだテレビ局で売れ、ルーはアシスタントのリックをナビゲーターとして雇い、本格的にナイトクローラーの仕事を始めることに。
求められたのは、視聴者の平穏が脅かされる都市犯罪や事故のグラフィックな映像。衝撃的な映像をとるため、倫理観にとらわれない行動を繰り返すルー。その狂気は徐々に異常さを増していき、グラナダ・ヒルズで起こった殺人事件は、ルーの作為より、事件は思わぬ方向に動くことに。
《ドラマチック感想》
◆たぶん、みんな思う。「ジェイクの怪演がすごい!」
冒頭から異様な雰囲気のルー。まず見た目の廃れ感がすごい。
不健康で神経質そうで、眼だけがぎらぎら光っていて。もともと細身でないジェイクは、役作りのために10kg近くのダイエットを行ったそう。
最小限のまばたきで、異様な輝きがあるのに空洞に見える目。作ったような笑顔も人間っぽくなくて、その様子は高性能のAIが搭載されたサイボーグみたい。人工知能がネットの情報からビジネスについて学習をして、道徳とか倫理っていう感情を排除して、最良の答えをはじき出して行動している感じ。
だけど、それと同時に、他人に自分を認めさせたいというぎらぎらした欲求も伝わって。
目的のためには手段を選ばないという、狂気が潜んだ人物を、ジェイクは見事に演じていました。
◆ビジネス成功者としての素質がすごい
以下は、ナイトクローラーになると決めた瞬間から、ルーがやったこと。
- 開業において最低限に必要な環境を整える:盗んだ自転車を売って、無線機とビデオカメラを入手
- 「習うより慣れろ」で、自分に何が足りないかを知る:とりあえず乗り込み、現場を荒らしつつ撮影
- 同業先駆者からノウハウを盗む:他社のテレビ局とのやりとり電話に張り付き、交渉術を盗む
- 売り込みをかける:画像が悪い・未編集など気にせず、飛び込み営業
- アドバイスを真摯に受け止める:自分は覚えが早いです、と要望どおりのグラフィカルな映像を撮ることに邁進
- 事業拡大への投資:最低賃金でアシスタントのリックを確保
- 従業員を育成する:ほめてからダメ出し&アドバイスとマニュアルどおりの指導
- 自社の売りを強みに取引先・従業員と交渉し、優位性をつかみとる:映像渡さない、契約切るぞ、と脅す
- 市場を自ら拡大する:作為的に事件が起こるよう仕向ける
- 無駄な経費は削減:信用できない従業員は抹殺
- 綿密な計画:警察の尋問に答える回答まで準備して、事件を勃発させた
手段を選ばない狂気的な姿には寒気がしたけど、この人、普通に仕事めちゃくちゃ出来る奴じゃん!って思いました。
道徳的なことや社会のルールを無視している点は置いといて、とにかく何もないところから自分で道を開いていくやり方がすごかった。何でそれまで無職だったのか、逆に不思議。
向上心と半端ない自信。話術や交渉術に長け、ちゃんと手順を踏んでいく成り上がり方。全てに冷静で、映像の取り方もセンスがあったんだろうし、とにかく成功する人はこんな感じだろうなっていう要素をすべて持っていました。
◆映像や音楽が効果的
映像の緩急と音楽が独特な印象のこの作品。
例えば、定点に集中しているところから、弾けるように始まったアクション映画ばりのカーチェイス。そこまで徐々に登りつめた場面の緊張感に、カーチェイスのスリル感が合わさって心臓ばくばくになりました。
音楽もけっこういい。ちょっとパーティーっぽいのが入ったり。イメージとは違うポップな音楽が差し込まれる感じのエフェクトが印象的でした。
そして、一番印象に残ってるのは、静かなで綺麗な街の風景から切り替わった、風に暴れ狂う緑の空気人形の映像。それがルーのいかれっぷりとリンクしてて、すごい怖かったなあ。
◆最終的に思ったのは…逃げてー!
ルーのような病名がつきそうな人格は、自己の利益のために周りの人の人生を巻き込む。
事件が起こったり、人が死ぬような事態はもってのほかだけど、彼のような自己愛が強すぎる人間が、他人を踏み台にしてのし上がるっていうのはよくあることだと思う。そして、それは案外身の回りにもけっこういたりして…。
話がうまくて、仕事が出来て、っていう人物は求心力もあって(ルーは全然なかったけど)、一見魅力的なこともあるけど、なんか様子おかしいって気づいた時は、皆さん巻き込まれないように全力で逃げてー!と思います。
怖いけど、怖いもの見たさをくすぐる、面白い映画でした。