邦画

『クリーピー~偽りの隣人』感想 いつの間にか巻き込まれる恐怖

反社会性人格障害=サイコパスによる連続殺人事件を描いた作品。元刑事で犯罪心理学者の主人公が、過去の未解決の事件に関わることになり、引っ越し先では奇妙な隣人と遭遇する。この二つの出来事は結びつくのか。

この作品の原作は前川裕の小説で、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。こちらを読んでいないので、結末はどうなるの?を、維持しながら観ることができました。

クリーピーは「ぞっとする」っといった意味。ぞっとするどころか、めちゃ怖かったです。

《作品について》

1.データ

  • 監督:黒沢清
  • 原作:前川裕 『クリ―ピ―』 第12回日本ミステリー文学大賞新人賞
  • 公開:2016年

2.キャスト

  • 高倉幸一(西島秀俊):犯罪心理学を学んだ刑事 ある事件をきっかけに辞職し、大学教授になる
  • 高倉康子(竹内結子):幸一の妻 隣人との良好な近所づきあいを望む
  • 西野雅之(香川照之):高倉夫妻の引っ越し先の風変わりな隣人
  • 西野澪(藤野涼子):西野家の娘 礼儀正しく、時折見せる意味深な表情が印象的
  • 野上刑事(東出昌大):高倉の刑事時代の後輩 高倉の退職後、過去のある事件の真相を追うため訪ねてくる
  • 本多早紀(川口春奈):過去の一家行方不明事件で一人残された娘 高倉と野上に当時の記憶を話す

3.あらすじ

刑事だった高倉(西島秀俊)は、逃走して人質をとったサイコパス犯罪者の説得にあたるが失敗。人質を死なせ、自身もケガを負ってしまう。その事件をきっかけに辞職し、犯罪心理学者として大学に勤める。そこで、過去におきた一家行方不明事件の真相を追うことになり、かつての後輩野上(東出昌大)と、一人残された娘の本多早紀(川口春奈)に接触する。

一方、高倉家が引っ越した先の隣人西野家の主人は、非常識な態度をとったり、親しく接してきたリと言動がおかしい。姿が見えない妻は病気だと話し、娘の澪(みお)(藤野涼子)とは仲睦まじそうに振る舞うが、ある日、澪は思い詰めた表情で高倉に「あの人は父親ではない、知らない人だ」と話す。

《ドラマチック感想》※ネタバレ

◆3通りに分けられるサイコパス

反社会性人格障害サイコパス。刑事をやめて大学教授となった高倉の講義で、サイコパスは次の3通りに分けられると説明していました。

1.秩序型 2.無秩序型 3.混合型

「秩序型と無秩序型はFBIの研究も進み、検挙率が相当高くなっているが、3の混合型は分析不可能。犯行が混乱していて予測できない」。この説明が結末のキーになっています。

◆犯人が分かっているからこそ、こみ上げてくる恐怖

題名にもあるし、予告から「本当のお父さんじゃない」って言ってるくらいだから、犯人はこいつだって最初から分かってる。それがどう暴かれるのか、過去の事件とどう繋がるのか、どう決着がつくのか。

自分では手を下さず、家族ごと巻き込んでいく犯行の残酷性。特に子供が巻き込まれてるのが見てられない。答えはそこにあるのに、次々と犯行が進んでしまうもどかしさ。分かっているからこそ、登場人物に「早く気づいて!」とか、「逃げて!」とか、「騙されないで!」とか、はらはらドキドキしてしまって。犯人が分からないストーリーとはまた違った怖さがありました。

◆豪華キャストの中でもやっぱり

香川照之さんのぶれないオーバーぎみの演技。もう、彼一人で映画の半分くらいの重みを担っています。観客を不安にさせるサイコパスぶりが本当に怖かった。しかも、ただ怖いだけじゃなく、襲われて逃げるときの歩幅の狭さ。笑えました。確信犯すぎでしょ。やっぱり素晴らしい役者さんです。

他にも、澪役の藤野涼子ちゃんも良かった。主演デビュー作「ソロモンの偽証」(宮部みゆき)の役名がそのまま芸名になった彼女。芯は強いのに、まだ子供で力が足りずサイコパスに翻弄される自分への絶望感が表現されていて。最後の高笑いのシーンも、壮絶な経験をした彼女の今後が案じられる声でした。

◆設定のとっちらかりが気になる

1.西野のサイコパスの型

狙う家の区画割りへのこだわりと、自分では手を下さないというルールがあった西野。秩序型のサイコパスだったって感じの流れ?

だから、終盤で犬の殺処分を高倉に任せた。でも、洗脳が浅い高倉が自分を撃つ可能性が高いことなんてわかりそうなものなのに。秩序型サイコパスは、その危険性を超えてでもルールを守ることが大事なのかな?

でも、母親を殺すよう澪に拳銃を渡したときは、割とすぐに拳銃取り上げて自分で殺してたけど…。逆に澪が自分を撃たなかったから、成功体験で高倉も撃ってこないって自信持っちゃったのかな?そもそも予測不能な混合型だったって設定?

どちらにせよ、冒頭で説明があったサイコパスのどの型に当てはまるのかよくわからず、すっきりせず。

2.康子の洗脳の仕上がり

高倉の妻の康子(竹内結子)。高倉と西野が対峙する場面で、高倉の犯人追い込み演説中であと一歩というところに、なぜか高倉に注射を打ち込むという刺客ぶり。注射の影響と洗脳がひどいんだな、と思っていたら、犯人が死んだと思ったとたんに、「もう死んでるから」と銃を何度も打ち込もうとする高倉を止めて、すっかり正気に戻っている。催眠術にでもかかっていたの?

3.民家の改造

西野家の玄関から横に入ったときの部屋の作りが、どう考えても普通の民家じゃない。ただ入り込んだ家をそこまで改造できるの?しかも過去のターゲットの家はそんなに改造してなかったのに。

こんな感じで設定のとっちらかりが気になる部分がけっこうありました。

◆原作を読んで完結としたい

実際にも尼崎事件とか洗脳による事件が起きているけど、やっぱり当事者になると、考えられなくなるってことは絶対にあると思う。だけど、娘の澪とか、高倉にこっそり伝えたりできるくらい正気だったなら、まず自分が逃げて、警察に駆け込んでほしかったな。そしたら、母親は助かったかも。

設定のつっこみどころはともかく、実際にこんな事件は起こらないとは言えないし、すっごく後味が悪くて、心臓に痛い作品でした。途中居心地が悪すぎて、うまく収まるはずの結末が気になって、早送りしたかったくらい。ほんと、どこまで見てもすっきりしなかった。

映画では表現しきれなかった部分も多々ありそう。過去の行方不明事件の本多家と水野家はどう殺されることに?本多家の生き残り早紀(川口春奈)は事件後無関係でいれたのに、どうして澪は西野の犯行を手伝うはめに?そのあたりも原作を読んだらすっきりするのでしょうか。気になるので、ぜひ原作を読んでみたいと思います。

関連作品紹介

設定は全く異なるけど、こちらも同じく身近に潜む人格障害を元にしています。興味ある方にはおすすめです。