邦画

『駆込み女と駆出し男』あらすじ・感想 最終的に女は強い

たったの2時間ちょっとで、離縁にまつわるたくさんの人間味あふれるドラマがつめこまれている作品。1クールのドラマでもいけそうな位の濃い内容が、見事にまとめられていました。

実在の人物や、当時の時代背景の描写が物語の芯を厚くして、そこに実力派俳優陣の見事な演技も加わり、これぞ、映画!というような仕上がり。この作品、AMAZONプライムビデオでもすごく評価が高いんですが、その評価どおり、観て間違いなかったです。
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《作品について》

《データ》

  • 監督:原田眞人
  • 原案:井上ひさし『東慶寺花だより』
  • 公開:2015年

《キャスト》

  • 中村新次郎(大泉洋):見習い医者で、戯作者にも憧れている。
  • じょご(戸田恵梨香):鉄練りの職人 夫(重蔵:武田真治)の放蕩と暴力から逃れるため東慶寺へ
  • お吟(満島ひかり):表の顔は商人・裏は大泥棒という堀切屋三郎衛門(堤真一)の妾。ある秘密を抱え東慶寺へ
  • 戸賀崎ゆう(内山理名):剣術道場の娘で、道場破りに来た荒くれ者に、無理やり婚姻させられ東慶寺へ
  • おゆき(神野美鈴):酒を飲むと豹変する夫との離縁を望み東慶寺へ来たが、夫への未練が残っている
  • 三代目柏屋源兵衛(樹木希林):東慶寺に入る前、聞き取りを行う御用宿の主人
  • お勝(キムラ緑子):柏屋の番頭の妻
  • 曲亭馬琴(山崎努):実在する戯作者で『八犬伝』著者

《あらすじ》

女からは離縁を申し入れらなった江戸時代後期。色々な事情で離縁を求める女たちを保護する幕府公認の縁切り寺、東慶寺が舞台。

山道で偶然出会ったじょご(戸田恵梨香)とお吟(満島ひかり)。それぞれ夫から逃げたい理由を抱えて、寺に駆け込んた。まずは身柄を預かる御用宿・柏屋にて聞き取り調査を受ける。そこには、宿主人の源兵衛(樹木希林)の甥である見習い医者の信二郎(大泉洋)も、源兵衛を手伝うため居候していた。

東慶寺で2年の奉公をする間にも起こる、さまざまな騒動や人間関係のもつれ。そして、過去に引っ張られながらも人生を立て直し、再出発をする女たち。力強く成長していく女たちが時代背景とともに描かれる。

 

《ドラマチック感想》

昔も今もそんなに変わらないであろう、夫と縁を切りたいそれぞれの事情。シリアスな部分だけど、適度にコミカルに、重くなりすぎない絶妙なテンポでストーリーは展開します。

特筆すべきは、それぞれ独特の台詞の言い回しと雰囲気で描かれている登場人物たちの個性。これがすごく面白かった。当時の士農工商の身分の違いとかが表現されているのでしょうか。どの役も「話し方」がすごく作り込まれてる印象でした。

満島ひかりが演じた妾のお吟はその代表で、浮世離れした話し方と、どこか地に足がついていないような不安定さ。はじめはけっこう違和感を感じます。だけど、駆け込んだ本当の理由から最期に至るまでの過程で、逆に見事な一貫性のあるキャラが際立って。

想像妊娠をしてしまうおゆき(神野美鈴)は、ふわふわと柔らかい少女のような話し方。お花畑で戯れているかのような明るさの内に、深い葛藤を抱えていて。その対比がこれまた見事。

武家の出のゆう(内山理名)は、武士のような威風堂々とした話し方。しかしその尊大な口調と態度を源兵衛に注意されると、教育を受けてきたと分かる、女性らしいきれいな日本語で話します。

戸田恵梨香演じるじょごの話し方は素朴で素敵。不器用でまっすぐがゆえにか、練り鉄の腕を嫉妬する夫の繁蔵(武田真治)と良い関係を築けず。最初は駆け込み寺でも自分のこともうまく語れないんだけど、勤勉に薬草の勉学と武芸に励むうち、本来持っていたまっすぐな強さが彼女の表にも出てきて。最後は、積極的に自分の思いをぶつけ、男にやるべきことをやらせる立派な手腕も身に付けます。

色々な事件が起きて、何度か胸がひやっとする場面もあるけど、第二の人生をスタートさせる前向きな女性たちと、その自立を助けようとする寺や御用宿の人々の温かさ。人間らしい心の通いが全体に描かれ、座りのよりハッピーエンドが心地よい作品でした。

しかし、離縁されようとしていた男たちには大いにツッコミたい。

あんなにひどい仕打ちをしといて、ヨリを戻そうなんて!粋か無粋かは知らんが、最期は抱きしめて泣けばいいじゃん!!2年後もまだ暴力振りかざして追いかけてきて、その執着、どんだけ~!!!

いつの時代だって、人の数だけドラマがあるなあとなりました。