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『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』感想 長い題名にこめられた皮肉と自己回帰の旅路

売れすぎて、なかなか購入できなかったオードリー若林さんの旅行記『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』。

若林さん&キューバという好きな物の組み合わせに、さらに人生観が変わる!と評判の一冊。これは読んでみなければ。

ピース又吉さんの『火花』もすごかったし、芸人さんって、みんな多才だなあと思いながら、読み終えた本。その感想です。

《作品データ》

  • 作者:若林正恭
  • 発表年:2017年

あらすじ

現代の日本社会に違和感を感じて、世間に馴染めないオードリー若林。

まとまった休みがとれ、兼ねてから訪れてみたかった社会主義国のキューバを一人で訪問することに。

キューバで出会った人々、英雄チェ・ゲバラ、カストロたちが残した軌跡。全てが新鮮で、日本とは違う暮らし。人見知りな男は意気揚々と街に繰り出す。そんな彼の高揚感がうかがえる、旅行中に撮影された写真の数々。

著者がこの旅で見たかったもの。知りたかったこと。

キューバに旅に出た本当の理由がわかったとき、この本はただの旅行記ではなくなります。

《ドラマチック感想》

1.新自由主義への違和感

冒頭はキューバではなく、ニューヨークに行ったときの話から始まります。

大きなモニターに映る広告や看板でひしめくニューヨーク。そこで囚われた奇妙な感覚。

それは、ここから発信されている価値観(競争社会に勝つことこそが人生の目的みたいな)に、自分は翻弄されているという直感。

…著者が感じたお腹いっぱいなその感じ、わかる!

私も、ここ1か月の間、ある資格を取得するために勉強をしていたのですが、いちいち名前がついた手法や用語の多さにうんざりしました。

英単語の頭文字をとった略語とか、似たような言葉がたくさんあって、こんなたくさんの手法や概念、ちょっと前の日本では使われてなかったでしょ、みたいな。

何でもかんでも定義づけされて、それを我先にと、こぞって取り入れる社会。

もちろん、先人たちの知恵は有効に使うべきです。

でも、世の中は情報だけが先走りして、「今、ここに本当に必要なもの」がわからなくなってしまっているような感じがして。

若林さんの「深いため息」で、感じていた違和感を改めて想起させられました。

2.違うシステムで動く国、キューバの魅力

日本やその他多くの国とは異なったシステム、社会主義国であるキューバは、どんな人生があるのか?

自分が感じている違和感を相対化するために、キューバ行きを決めた著者。

突然の決行なのに、運命に導かれるように開けていくキューバへの道。わくわくする著者の高揚感がすごく伝わってきます。その気持ちがこちらにも乗り移ってくる感じで、一緒に飛行機に乗って空に滑り出したような感覚になりました。

キューバ滞在中の記述は、お笑い芸人らしい面白さも交えながら、一見、ストレートな旅行記のように読める構成です。

看板のない街、古いアメ車、カストロやゲバラの軌跡が残る建物や、お世話好きで情にあついキューバの人々。

日本とは「別のシステムで動いている国」。そのキューバの魅力についてテンポよく語られていきます。

3.予期しないラストに旅の意味を知る

そして最後は、そっち!?と誰もが少なからず驚くと思う、びっくりな展開!

著者にとって、キューバへの旅がただの旅行だったのではないことが明かされていきます。

そう言われれば、伏線らしき物があったなあ。全然気づかなかったけど^^;

私はこの思ってもみなかった展開にうるっとなりました。準備していなかった分、ぐっときた著者の思い。

なので、このラスト部分まで、出来れば色々準備せずシンプルに読んでみてほしいです。

なかなか心を簡単に開いてくれなさそうな著者が、真っ裸な心の領域を見せてくれています。

4.名言の多さに才能を感じる

文量的には少ない作品ですが、名言がちょこちょこ出てきます。

最後に旅に出た理由を表現した言葉も良かったですが(ここでは割愛)、個人的に若林さん、すっごい!と痺れたのはこの一節。

日本の自由競争は機会の平等であり、結果の不平等だろう。キューバの社会主義は結果が平等になることを目指していて、機会は不平等といえるのかもしれない。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』より

終盤での記述ですが、色々な布石を置いてここへ持ってくるまでの構成がうまい!

物事を真に深く考えることができなければ、こんな考えは出てこないだろうし、本当に頭の良い人なんだなとなりました。

そもそも、深く考えることができる人じゃないと、あんなややこしそうな性格(失礼!)になりませんもんね。

ともあれ、この文章から、この本がただの旅行記じゃなく、著者個人の重みも加わった、けっこう社会的な要素もある作品だということがわかると思います。

感想 まとめ

前向きじゃなくても、悶々としていても、投げ出さずに、自分とは?何が大切なのか?と「生きる」意味を考えている著者。

社会と自分との違和感をスルーするのではなく、対峙し続けています。

その思考の深さとこだわり。さすがの売れっ子さんです。

やっぱり、売れる人にはちゃんと理由があるんだな、と感じた1冊でした。

とても読み易いので、是非一気読みで読んでみてほしい作品です。

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