『永遠の0』を読んで、戦争の時代を生きた男たちのドラマに心奪われた私。同じく男の生き様が描かれたこの『影法師』も気になっていました。
お正月の帰省時に、本棚にこの本を発見!読み始めると、やっぱり夢中の一気読みとなりました。その感想です。
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《作品データ》
- 作者:百田尚樹
- 発表年:2010年
あらすじ
時は、戦乱が遠のいた江戸時代。
茅島藩(架空)の下士の家に生まれた勘一は、上士により目の前で父親を殺され、その後も身分の低さから、生活に困窮した少年時代を過ごす。一方、中士の家に次男として生まれた彦次郎。二人は身分を超え、刎頸の契りを交わす。
身分や家長制度が何よりも優先された時代。勘一は苦難にまみれながらも、真に生きる道を模索する。そんな中、将来を嘱望されていた彦次郎は不可解な事件を起こし、藩を逐電してしまう。
その後、筆頭家老となった名倉彰蔵(幼名:勘一)は、再会を果たすことなく、竹馬の友の死を知る。
彦四郎はなぜ不遇の死を遂げることになったのか。
武士として時代を生きた男たちの信念と友情の物語。
《ドラマチック感想》
読み終わった後の満足感がすごい
さまざまな苦難を乗り越え、家老まで登りつめた主人公の勘一。
苦難の過程は壮絶です。理不尽な身分制度や慣習により、父親を殺され、差別され、貧困に苦しみ、夢を叶えることは難しい状況。
だけど、強い信念と努力により、勘一を取り巻く環境は変わっていきます。そして、それは一人の力だけでなく、彦次郎という友との出会い、友情があってこそでした。
主人公の二人は、「下士の長男」と「中士の次男」という、それぞれの立場で、制度や慣習に縛られていました。だけど、どちらも自分が為すべきと信じたことに、立ち向かって生きていた。その姿は、時代も性別も超えて、かっこいい!と思える生き方でした。
魅力的な人物像と、二人はどうなっていくの?という展開に、ページをめくる手がとめられません。
最後は、「ほんとに良い話聞かせてもらったー、ありがとう」って言いたくなるような満足感。
主人公たちのように、信念を持って、かっこよく生きたいな、と平凡な私の心も強くしてもらった感じです。
真の才は、己を知る
作品を読みながら、思い出したのは、友人の弟の話。
周りがピアニストになればいいのに、と思う程のピアノの腕前だったんだけど、当の弟は、「自分では一流になれない」と、音楽関係の他の仕事に就いたそう。
「本物」がわかる程の才能があるからこそ、自分はその高みに立てないこともわかるという話でした。
彦次郎も、その聡明さゆえに、自分の才や剣術は、藩をより良くできるものではなく、勘一こそがその役を果たせる人物だと考えたのでしょう。
また、みねを幸せに出来るのは、一緒になるために武士を捨てざるを得ない自分よりも、ひとかどの人物と信頼する勘一だと。
自らの思いや命を賭して、影に徹した彦次郎。彼の人格、武士道にこそ、その才の真髄があったのだと思いました。
惹き込まれる百田尚樹の文筆テクニック
百田尚樹さんの作品は、文章がうまくて、とにかく読みやすい。
馴染みのない背景や複雑な状況も、一つ一つ、わかりやすく説明されているし、次の展開へのアシストが、何げなく加えられた文で、さりげなく表現されていたりします。ん?となりながらも、読み留まらせない巧みさで、伏線を張るというよりも、ひっかかりを忍ばせているという感じ。
その執筆の方法ですが、百田さんは、まず、書きたい場面を描いていき、あとで、場面同士がうまくつながるように補足していくとのこと。
そのやり方で、このスムーズな読み易さまでまとめ上げるなんて、めちゃくちゃテクニックがある方だなあとなりました。
百田さんの作品を読むのは、『永遠の0』『海賊とよばれた男』『モンスター』に続き、この『影法師』で4作目です。とにかく、どれもすごく面白い!
全体的にテーマとされているのはその時代特有の生き様でしょうか。
これらの作品を読み終わった後に共通して感じた余韻は、先人たちへの感謝とか尊敬みたいな感情です。フィクションであっても、こういう風に生きた人たちがいると思えることに、力をもらえたというか。ただ面白いだけじゃなく、自分がどう生きるかというのも考えさせられます。
他の作品についても、どんどん読んでみたい作家さんです。