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『通天閣』 西加奈子が描く大阪シンボルが建つ街の悲悲交々、時々喜


通天閣 (ちくま文庫)

娘への読み聞かせ、絶賛取り組み中の私。図書館に絵本を借りに行きました。ついでに自分にも、と、一冊。西加奈子さんの『通天閣』を借りてみました。

 

《作品データ》

  • 著者:西 加奈子
  • 発表年:2006年
  • 受賞歴:2007年 織田作之助賞 大賞受賞

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《ドラマチック感想 》

 

通天閣

通天閣が中心に建つ街、大阪新世界。

私が大学進学のために大阪に出てきたとき、大阪と言えばここ!と真っ先に友人が観光に連れて行ってくれました。関西人にとっても、当時この界隈はディープなエリア。

そのとき、それはまさに通天閣の真下の通りで起こった出来事。

「待ってよぉ~」 泣きながら男を追いかけてすがりついている、真っ赤なスーツを着た30代ぐらいの、外国人風のお姉さん。

「うるさい、ついてくるな!」と、歯もほとんどなさそうな、よれっよれの恰好をした年齢不詳(50代くらい?)のおっちゃんがそれを振り払う。

見た目も印象的なカップルの、白昼堂々の痴話喧嘩に、これがディープ大阪か!と、まだ若かった私はカルチャーショックを受けたのでした。

たった数時間の滞在で、こんなドラマに出くわす街、新世界。

 

この小説は、そんな街を舞台に、後ろ向き、もしくは投げやりに働いてる、2人の男女が主人公の物語です。

1人目の主人公は、40代工場勤務。自分の子供や家庭を持つことは諦めた、と「生きる」のではなく、「こなす」日々を送ることに徹する中年男。

もう一人の主人公は、スナックでチーフとして働く20代の女の子。本当はもうわかっているのに、終わりに気づかないふりをして、海外に留学した恋人を待っている。

孤独な二人の主人公は、その孤独への予防線をはるがゆえに、さらに八方塞がりになっていきます。

後悔に縛られて、何かが起こる前に道を塞ごうとする自分。諦められずに執着して、どんどん愚かになる自分。どちらの気持ちも身に覚えがあるようで、心がぎゅっとなりました。

そして、通天閣で起こった騒動により、二人は運命的に交錯します。

救われはしないんだけど、少しだけ主人公たちの心のベクトルが前向きになる結末と、キャラが濃すぎる新世界の住人たちの面白さに、読み終わった後は、沁みいるように心が温まる、そんな作品です。