あらすじ
主人公の「私」と「先輩」が、同じ日・同じ場所で起きた出来事、出会った人たち、それぞれの一日を交互に語る。
「私」は興味の赴くまま、夜の街へ、古本市へ、学園祭へと赴く。
「先輩」は、「私」である短い黒髪の彼女に恋をしている。「なるべく 彼女の 目にとまる」を略した「ナカメ作戦」を実行し、彼女の視界に入るべく、彼女の行動を追う。
その中で二人が出会う、妖怪とも、超人とも、実在してそう、とも思える奇想天外な人々と、めくるめく出来事。
先輩の想いは果たして、ノーディフェンス、故に難攻不落の彼女に届くのか?二人の恋の行方は如何に?
ドラマチック感想
小説のよくあるパターンとして、伏線が知らず知らずに張られていて、それが最後に一つに繋がる、っていう展開が多いと思う。実際、見事にやられた!っていうタイプの小説が私は大好き。
だけど、この作品の伏線はほとんどオープン。第1章での、主人公の「私」が木屋町・先斗町で出会う人々の関係の繋がりだったり、第2章の古本市の神様の正体だったり、分かりやすく情報が織り込まれています。つまり、最初からストーリーの展開が推測できるわけです。
なのに!だけど!
1章が終わるごとに、今まで触れたことがない世界に接した新鮮さ。まるまるっとストーリーが納まったときの、清々しすぎる読後感。
全ては、ウィットに富んだ森見節と、奇想天外なのに親しみのある登場人物たちによって繰り広げられる、完全なるオリジナルワールドのせいでしょう。
『四畳半神話大系』のアニメを見ているせいもあると思うけど(一部登場人物が他の森見作品とリンクしている)、森見さんの小説を読むと、私の頭の中で、物語が映像になって動きます。人物・背景描写がうまいんでしょうね。濃いキャラクターたちや京都の街を、印象的・躍動的に表現してあって、この小説を読んだ人はみんな私と同じ映像を頭に浮かべてるんじゃないかと思えるくらい。
そんな小説が、今回アニメ映画化されたとのこと!
私の頭に浮かんだ映像と、他の人の頭に浮かんだ映像は同じだったのか?それとも違ってるのか??
これはぜひ、実際に観て確認したいと思っています。
あと、作中に本の名前と作者がたくさん出てくるのですが、黒髪の乙女が『ラ・タ・タ・タ・タム』を思い出したように、昔読んだ本と当時の記憶が蘇ってきました。懐メロを聞いて、当時のその様子が思い出されてせつなくなったりするのと同じで、本も、その時の自分の思い出をパッケージしてくれる。この作品を読んで、古本市に行ったり、もっとたくさん本を読みたいなとなりました。
最後に。森見節で、本当にたくさん惹きつけられる言葉があるんだけど、一番印象的だったのは『ロマンティック・エンジン』。
この言葉が持つ瞬発力と、淡く、しかしながら宇宙にでも飛んでいけるような「先輩」の恋心を表した言葉に、うまいなーとなりました。このブログのモットーが「ドラマチック・ライフ」なので、似た語感に惹かれたのかも!?
大人になってもそんな風に恋心を表現できる森見さん。素敵です!