皆さんは、思い入れがありすぎて、逆に観ることができない映画、ありますか?
私はまさしくこれです。『ジョゼと虎と魚たち』。
この映画について考えると、初めて観た当時のことを思い出して、沁み沁みと胸に広がる、言い知れぬせつなさと不安。私の中で、この映画と昔あったつらい出来事がセットになっているのです。
再度、観返せるようになるまで十数年かかりました。そんな作品を紹介したいと思います。
[adsense]
Contents
《作品について》
1.データ
- 監督:犬童一心
- 原作:田辺聖子
- 出演:妻夫木聡 池脇千鶴 新屋英子 上野樹里 新井浩文
- 音楽:くるり 主題歌:「ハイウェイ」
- 公開:2013年
2.あらすじ
あの日の早朝、大学4年生の恒夫(妻夫木聡)は、坂道を転げ落ちた乳母車に乗っていたくみ子(池脇千鶴)と出会う。それを助けた縁で、その祖母とくみ子が住む家に通うようになる。
くみ子は歩くことができない。老婆はそんな孫を「こわれもの」と言い、世間から隠して生活していた。
くみ子の不思議な魅力と、その環境に興味を持ち、惹かれていく恒夫。くみ子が夢中で読んでいたフランソワーズ・サガンの小説からとり、彼女を「ジョゼ」と呼ぶ。ジョゼも、世界を広げてくれる恒夫に惹かれていき…。
《ドラマチック感想》
この映画とセットになったつらい思い出…。一体、何があったかというと、それはもう、分かりやすく失恋です。
当時、お付き合いしていた彼に対して、思いやりが欠けてしまっていた私。一緒にいるのが当たり前になっていて、傍若無人でけしからん態度をとっていました。彼は、そんな私に重荷を感じていて、それを承知のうえで、さらに気持ちをためすような行動をとってしまっていて。
そんな中、二人でこの映画を観たのです。
観終わった後の、部屋の中の空気と言ったら…。そこから、別れ話ですよ。
“いつか貴女はあの男を愛さなくなるだろう”とベルナールは静かに言った、”そして、いつか僕もまた貴女を愛さなくなるだろう。
我々はまたもや孤独になる、それでも同じことなのだ。其処に、また流れ去った一年の月日があるだけなのだ”
サガンの小説『一年ののち』の一節を朗読するジョゼの声と、くるりの音楽。
久しぶりに観た『ジョゼ虎』は、なんとまあ、やっぱりせつなくて。おばはん、泣いてしまったわ。
愛に我儘とか依存とか執着とか、「自分のため」の気持ちが加わることで、それは重荷となって、相手も自分も傷つけてしまう。人間のどうしようもなく人間らしい部分。
恒夫はジョゼの家を出て、元カノ香苗(上野樹里)のところへ。こらえきれずに泣き崩れる恒夫。別れの理由、「僕が逃げた」。この言葉が痛いほどせつなかった。重荷になってきた愛に葛藤しつつ、それはどうしようもないことで。
映画の最後、ジョゼはそれまで乗ることを拒んでいた車いすに乗って、一人道を進みます。
何も知らなければ、悲しいことはない。知ってしまったから、悲しい。そして、何も知らなかったあの場所へは、二度と戻れない。だけど、ジョゼは知りたかったし、知ることを選んだ。
全ては始まりから決まっていて、ジョゼはそれもちゃんとわかっていたんだなと、私自身も、しくしく痛む傷を感じながら見終わりました。
若い俳優さんたちの瑞々しい演技。妻夫木君の演技の素晴らしさは表現しきれない。今見ても、古くならない映像。空気のように映像やストーリーと一体になった音楽。
10数年ぶりに改めて観たけど、やっぱり引き続き、「思い入れありすぎ」の素晴らしい作品です。
くるりのサントラもおすすめです。
ジョゼと虎と魚たち(Oirginal Sound Track)