洋画

映画『美術館を手玉にとった男』感想 詐欺師?芸術家?真意は?

2011年にアメリカで実際に起こった事件を追いかけたドキュメンタリー作品。

30年間にわたり、20州46の美術館に100を超える贋作を寄贈したマーク・ランディス本人が出演しています。資産家や神父を装って美術館に赴き、自分で製作した贋作を寄贈。それらの作品は多くの美術館で本物として展示されていました。

彼はなぜ贋作を美術館に寄贈しはじめたのか?たくさんの専門家の目をかいくぐったその技術は?と気になることがたくさん。

芸術・美術館がテーマなだけあって、アートワークも面白い作品でした。
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《作品について》

1.データ

  • 監督:サム・カルマン
  • 共同監督:ジェニファー・クラウスマン
  • 公開:2014年(米)

2.キャスト

  • マーク・ランディス:天才贋作者 アメリカ中の美術館に贋作を寄贈する
  • マシュー・レイニンガー:ランディスの贋作を見破ったシンシナティ美術館の元キュレーター
  • アーロン・コーワン:シンシナティキュレーターである企画を行う

《ドラマチック感想》

◆贋作の手腕がすごい

実際に彼が贋作を作る場面が幾度も映し出されます。

確かな素描力だけで完結させる作品もあれば、カラーコピーを下地に、その上に絵の具を塗り重ねる作品もあったりと工程はさまざま。額縁も安い量産品をそれっぽく加工し、用紙の朽ち感も自分で細工しているから驚きです。

また、贋作する作品選びも秀逸。モネが「睡蓮」というテーマで、たくさん作品を残したように、画家が同じテーマで複数残したような作品だったり、オークションでの落札者が非公開の作品だったり。美術館の専門家の知識が逆に仇になったケースもありそう。

寄贈とはいえ、作品の真偽を確かめない美術館にも驚きましたが、多くの専門家の目をかいくぐったランディスの技術は、相当に凄い!ということがわかります。

◆贋作と知った人々の反応

ランディスの寄贈作品が偽物だと知ったときの人々。

詐欺だ!と怒る人もいれば、やってる行為自体がアートと興味を持つ人もいたりと、反応は様々でした。

逮捕こそされなかったものの、彼のしたことは大迷惑な行為で、多くの人を傷つけた可能性もあります。実際、最初に偽物だと気づいたレイニンガーは、ランディスを追うことにのめり込んでしまい、仕事を首になってしまいました。また贋作を本物と展示してしまった美術館のプライドも傷ついたことでしょう。

だけど、彼の作品がたくさんの人々の心を動かしたのも事実。その点で、彼の作品はただのクラフト(工作)ではないと断言できます。

◆ランディスはなぜ贋作の寄贈を始めたのか

ランディスは両親についてたくさん語っています。父や母が感心する生き方が出来ているかどうか。彼の中に占める両親の存在がとてつもなく大きいことがわかります。

また、贋作の寄贈は信念を持った慈善活動として行っていると話したランディス。自分の人生で親切にしてくれる人はほとんどいなかった、友達はいない、とも。

そして映画終盤の語り。「人は皆役に立つ存在でありたいと思う。だから人は各々違うけど、同じともいえる」。この言葉に彼の思いが全て乗っかっているように感じました。

つまり、彼は自分が思いつく最善のやり方(有名画家の作品を寄贈するという慈善活動)で、社会とつながりを持ち、シンプルに認められたかっただけなのではないでしょうか。そのやり方と才能のくせがすごいから有名人になってしまったけど、根本は子供が親に褒められい気持ちと同じ気がします。

だけど、本人の思いとは関係なく、贋作ではなくオリジナルを作るように周りは進言します。彼がなぜこのようなことをしたのかについて、その深層まで考える人はあまりいなかった。

個展を後にするランディス。最後は誰かに見送られるでもなく、ゴミ箱の横を曲がって消えていく後ろ姿が印象的でした。

◆アートディレクションが面白い

監督は美術界に造詣が深いというサム・カルマン。

作中、古い映画のワンシーンや、本や雑誌の紙面が効果的に差し込まれます。特に、ランディスの贋作が寄贈された46の美術館が音楽とともに紹介されるシーンが良かった。美術館の映像の上に雑誌のデザインのようにフォントが乗っかって、まるで広告のよう。他にも面白いアートワークがたくさんありました。

音楽も、古い創作映画に流れるような雰囲気のあるジャズで、緩慢な曲調も少しスリリングに感じる曲調もあるんだけど、一貫したテイストですごくかっこいい。サントラがあればぜひ聞きたいです。

1時間半と映画にしては短い作品ですが、芸術に関心のある方には見どころがたくさんです。

◆アート以外の観点も

事件の舞台や関係者が美術関係だったことで、芸術に興味のある方や学生さんとかが見る機会が多くなりそうですが、異質な出来事に対する人々の反応とか、誰かに認められたいっていう承認欲求とか、人間の普遍的な問いが内包されている作品だなと思いました。

とりあえず、ランディスに友達と呼べる身近な人物が一人でもいたら、ここまで被害は広がらなかったような気がします。

興味のある方はぜひ見てみてください。